愛犬と一緒に入れるカフェや商業施設、宿泊施設は少しずつ増えています。バギーやキャリーバッグを利用すれば入店できる場所もあり、以前より愛犬との行動範囲は広がりました。
ただし、犬を飼っている人だけが利用する場所ではありません。犬が苦手な人や、衛生面を心配する人もいます。愛犬と行ける場所をさらに増やしていくには、設備だけでなく、飼い主が愛犬の排泄を適切に管理できることも大切です。
社会化と同じように、暮らしの習慣を教えることも犬育ての大切な一部です。今回はその代表として、家庭で始めるトイレトレーニングから、外出先での排泄やマーキングの管理までを考えます。
スウェーデンやスイスなど海外の一部の地域では、犬が人の暮らしや社会に自然に溶け込んでいる光景が見られます。その背景には、飼い主が子犬の時期や愛犬を迎えた頃から、心身の健康に配慮しながら、人と暮らすための習慣やマナーを根気よく教えていることがあります。
犬と行ける場所を増やすには、施設側の対応だけでなく、飼い主が周囲へ配慮することも欠かせません。排泄やマーキングを適切に管理することは、犬と人が心地よく共生するための基本的なマナーです。
愛犬との旅行や外出を楽しむペットツーリズムが広がる今、施設側に受け入れを求めるだけでなく、私たち飼い主も「安心して迎えてもらえる犬」に育てていきませんか。
その積み重ねが、愛犬と行ける場所を増やし、犬が社会に自然に溶け込める未来につながるはずです。
では、愛犬との外出を安心して楽しむために、まずは家庭でのトイレトレーニングから始めましょう。
お出かけの練習を始める前に、まずは家庭内で排泄する場所とタイミングを覚えさせます。
子犬は、起床後、食事や水分補給の後、遊んだ後に排泄しやすい傾向があります。愛犬の様子を観察し、床のにおいを嗅ぐ、落ち着きなく歩く、くるくる回るといったサインが見られたら、早めにトイレへ誘導しましょう。
成功したら、その場ですぐに優しく褒め、ごほうびを与えます。排泄が終わって時間が経ってから褒めても、犬には何を評価されたのか伝わりにくいため、「成功直後」がポイントです。

最初から小さなトイレで正確に排泄するのは難しいものです。はじめは愛犬が体を回せる程度の広さを確保し、失敗しにくい環境をつくります。
トイレシートだけで分かりにくい場合は、足裏で場所を区別しやすい、少しフカフカしたトイレ用マットなどを活用する方法もあります。ただし、カーペットやバスマットまでトイレと勘違いしないよう、似た素材は練習場所の近くに置かないほうがよいでしょう。
サークル内の生活スペースには、犬の足が滑りにくく、汚れても清掃しやすいクッションフロアを敷くと管理しやすくなります。
大切なのは、犬に考えさせて失敗させることではなく、飼い主が成功しやすい環境とタイミングを準備することです。
トイレトレーニングと同時に、ハウス(クレート)で落ち着いて休む練習も始めるのがおすすめです。
基本の流れは、次のようになります。

犬は一般に、寝床を汚すことを避ける傾向があります。その性質を利用すると、休む場所と排泄する場所の区別を教えやすくなります。クレートは排泄のタイミングを管理する助けになりますが、無理に長時間我慢させる道具ではありません。
「クレートに入れれば膀胱が大きくなる」と考えるより、成長に伴って排泄をコントロールできる時間が延びるなかで、適切な生活リズムを教えるものと捉えましょう。
月齢、体格、水分摂取量、運動量や体調によって我慢できる時間は異なります。小型犬は一度にためられる尿量が少ない場合もあるため、個体に合わせた管理が必要です。

トイレの失敗を叱ると、犬は「場所を間違えた」のではなく、「人の前で排泄すると怒られる」と覚えてしまうことがあります。その結果、隠れて排泄したり、飼い主が見ていると排泄できなくなったりする可能性があります。
失敗したときは騒がずに片づけ、においが残らないように清掃します。そのうえで、誘導するタイミング、トイレの場所と広さ、自由にしていた範囲、生活リズムを見直しましょう。
成功を増やして褒める方法は、失敗を待って叱る方法より、犬にも飼い主にも分かりやすいトレーニングです。
家の中での成功が増えたら、次は飼い主の合図と排泄を結びつけていきます。
自宅で排泄を始める直前に「ワンツー」「チッチ」「トイレ」など毎回同じ言葉を添え、成功後に褒めます。繰り返すことで、言葉と排泄を結びつけやすくなります。
最初から合図だけで排泄させようとせず、自然に排泄するタイミングに言葉を重ねるところから始めましょう。
自宅で合図による排泄ができるようになったら、刺激の少ない場所から外での練習を始めます。
外出先では、施設に入る直前に落ち着ける場所で排泄を促します。最初は短時間の外出から始め、排泄の間隔や愛犬のサインを観察しましょう。排泄物を処理する袋、水、シート、消臭用品なども携帯します。

マーキングは通常の排尿とは異なり、少量の尿でにおいを残す犬のコミュニケーション行動です。完全になくすことを目指すのではなく、してよい場所と、してはいけない場所を分けて教えます。
まず、施設へ入る前に排泄を済ませます。マーキングさせてもよい場所を決め、排泄中に「ワンツー」などの合図を添え、終わったらすぐに褒めましょう。先に適切な場所で排泄する機会をつくることが、施設内での失敗を防ぐ第一歩です。
次に、自宅など刺激の少ない場所で、名前を呼ばれたら飼い主を見る練習や、「行くよ」の合図で一緒に移動する練習をします。できたら食べ物など、愛犬が喜ぶものですぐに褒めます。慣れてきたら、自宅の前、静かな道、犬のにおいがある場所というように、少しずつ練習する環境を変えていきます。
施設内ではリードを持って愛犬をよく観察します。床のにおいを長く嗅ぐ、柱や家具へ近づく、脚を上げようとするといった兆候が見られたら、排尿する前に名前を呼び、「行くよ」の合図でその場から離れます。すぐに飼い主のほうへ戻れたら、その行動を褒めましょう。
これは、マーキングを叱って止めるのではなく、「その場所から離れて飼い主のもとへ戻る」という代わりの行動を教える方法です。海外の獣医行動学の資料でも、マーキングしそうな場所を長く嗅ぎ始めた段階で、叱らずに呼び戻し、すぐ反応できたことを褒める方法が紹介されています
施設内でいきなり成功させようとせず、刺激の少ない場所から段階的に練習することがポイントです。うまく対応できない間は、柱や家具へ近づけないなどの環境管理も併せて行い、マーキングを繰り返し経験させないようにしましょう。

ペット用バギーやキャリーバッグに入れることを条件に、犬と利用できるショッピングモールなどの施設は増えてきました。人混みでの接触を避けやすく、犬を落ち着かせやすいなど、便利で安全性を高められる面があります。
一方で、バギーやバッグに入っていれば排泄管理が不要になるわけではありません。長時間の利用では排泄のタイミングを逃したり、犬の小さなサインに気づきにくくなったりすることもあります。
入館前に排泄を済ませ、途中でも休憩を設ける。バッグから出したときにマーキングさせない。こうした生活習慣が身についてこそ、便利な道具を生かしながら、愛犬との行動範囲を安心して広げられます。

これまでできていた犬が突然失敗するようになった場合は、トレーニングだけの問題と決めつけないでください。
排尿回数や飲水量が急に増えた、尿が出にくそう、血尿がある、眠っている間に漏らす、元気や食欲がないといった変化があれば、早めに動物病院へ相談しましょう。下痢や便秘が続く場合も同様です。
トイレトレーニングは、単に家を汚さないためのしつけではありません。愛犬の状態を把握し、飼い主の合図で行動できるようにする、暮らしのトレーニングです。
まずは家の中で成功しやすい環境を整え、ハウスとトイレを一緒に教える。失敗は叱らず、タイミングと環境を見直す。家庭で安定したら、合図による排泄や、マーキングせずに通り過ぎる練習へ進みます。
バギーやバッグによって犬と入れる場所が増えた今、次に目指したいのは、適切なトイレトレーニングと行動管理によって、犬がより自然に人の暮らしへ溶け込める社会です。
犬を飼っていない人にも安心して受け入れてもらえるように。トイレトレーニングは、犬と人が心地よく共生するための「暮らしのマナー」の第一歩です。
本記事は、UC DavisやRSPCAによる家庭でのトイレトレーニング、
AVSABの人道的なトレーニング方針、尿マーキングに関する
獣医学的情報などを参考にまとめています。
参考資料
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